399 / 2196

第399話

「まさかぁ。私にはそこまで細かいルールを定めることはできないよ」 「そ、そうですか……。ルールブックをお持ちだから、てっきり」 「ルールブックはその気になれば誰でも手に入れられるよ。だけど、その中身を記すのはとても難しい。何もルールがないところから、全部構築しないといけないからね」 「確かに……。では、ヴァルハラのルールはやっぱりオーディン様が作ったんですか?」  そう聞いたら、驚きの答えが返ってきた。 「いや、ランキング制にしたのは父上だけど、そのランクによって『どういう権利が~』とかをきちんと決めたのは別の人だよ。あと、治安を整備したのも父上とは全然関係ない」 「……え? そうなんですか?」 「うん。私が聞いた話では、無法地帯だったヴァルハラの改革を進めた戦士がいて、その人を中心としていろいろルールができたって」 「ええええ!? そんなの聞いたことないんですけど!」 「あれ、じゃあ違うのかな……。でも、父上はヴァルハラのことを『自分の戦士を囲っておく箱庭』程度にしか考えてないから、自分から率先して細かいルールを決めるなんてことはないと思うんだ。無法地帯っぷりに困り果てた戦士が、中であれこれ改革したとしても全然おかしくない」 「ええー……?」  あまりに驚きすぎて、フォークを握る手も止まってしまった。  ――そんな話、一度も聞いたことがないんだが……。  バルドルと話していると、次から次へと驚きの事実が飛び出してくる。今までヴァルハラで生活してきたのに、自分はヴァルハラのことを何も知らなかったようだ。  ――そう言えば兄上、「昔は治安がよくなかった」って言ってたような……?  ということは、兄はヴァルハラが徐々に改革されていくのを、目の当たりにしている可能性がある。兄自身はそういった昔話をほとんどしてくれなかったが、この際だからじっくり聞いてみるのも悪くない。  ……いや、今は直接話す手段がないのだけれど。

ともだちにシェアしよう!