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第402話(フレイン視点)

 フレインはむくりと身体を起こし、弟が作ってくれた木彫りの弟に話しかけた。 「つまんないよ、アクセルー……」  浮気はしないと弟に約束した。だから一年間は誰かと寝るつもりはない。そんなことしても虚しいだけだし、そもそも弟と寝た時以上の快感は得られないと思う。  だからといって、このまま放っておいても空虚な気持ちは埋められそうにない。  弟がいれば些細なことでも楽しくなるのに、彼がいないだけで同じ日常がこんなにつまらなくなるのかと、今更ながら実感した。  アクセルが生まれる前は一人でも平気だったのに……あの頃の自分がちょっと懐かしい。 「お前が可愛いからいけないんだよ、もう」  少し唇を尖らせ、木彫りの弟を指先でつつく。  我が弟は顔も性格も可愛いし、手先も器用で頑張り屋なのだ。嫌いなところなんてないし、全てが愛しくてたまらない。  だからつい、過保護になってしまう。  今回の人質の件でも、「変なところに預けられたら大変だ」と、バルドルのことを調べまくったのだ。もし悪い相手だったらオーディンに訴えて変えてもらおうとさえ思っていた。  結果、優しくていい神だとわかったのでホッとしたが、それでも向こうでどんな生活をしているのかは未だに少し不安である。  万が一トラブルが起きても、自分は何もしてやれないのだ。同じヴァルハラにいるのなら、どんなに離れていても一目散に駆けつけるが、今回はそれができない。だから余計に不安になる。  弟は大丈夫なのか。本当に元気でやっているのか。何か危ないことはしていないか。バルドル以外の変な神に口説かれてはいないか……。  ――まあ、ここで心配しててもしょうがないんだけどさ……。  せめて、毎日の元気な手紙が無事の証だと思って、静かに見守るしかない。  フレインは弟の木彫りを指先でなぞった。頭を撫でるように、何度も何度も。

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