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第406話
「彼はアクセル、ヴァルハラから来たエインヘリヤルだよ。ほら、人質交換制度があったでしょう? それで一年間こっちに来てるんだ」
「人質……? それは知っているが、エインヘリヤルは父上の眷属だろう? それが何故兄上の元にいるのだ? 本来ならヴァン神族の世界 に送られるはずだ」
「それは私もよくわからない。何故か今回は私のところに通達が来たからね。でも彼自身は真面目だし働き者だし、とってもいい子だよ。お前も仲良くしてくれると嬉しいな」
「……はあ。兄上がそう仰るなら」
やや不服そうだったが、ホズはそれ以上何も言わなかった。
――ホズ様、俺がバルドル様と一緒に暮らしてるのが気に入らなかったのかな……。
ホズにとってもバルドルは、大切なお兄さんに違いない。自分に例えるなら、兄・フレインが知らない間に誰かと同居しているようなものだ。俺は滅多に兄上に会えないのに、何の関係もないお前が同居しているなんてずるいじゃないか。不公平だ。
多分、ホズはそんな風に思ったのだろう。もし自分がホズの立場だったら、同じことを思うだろうから気持ちはわかる。
本当に仲のいい兄弟なんだなぁ……としみじみ思いながら、アクセルはホズに近付いた。そして驚かさないように挨拶した。
「ヴァルハラから来ました、アクセルです。バルドル様には大変お世話になっています。どうぞよろしくお願いしま……」
アクセルの言葉はそこで止まった。首筋にひやりとした風を感じ、反射的に身が硬くなった。
気付いたら、ホズの剣が頸動脈に当てられていたのだ。
「……きみはまだ、そこまでランクが高いわけではないようだな。隙だらけだぞ」
「っ……!」
「ラグナロクのために集められた戦士なら、もっと強くなることだ」
薄い灰色の目がこちらを貫いた。防御も反撃もできないまま、アクセルはただそこに立ち尽くした。
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