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第407話
バルドルが苦笑する。
「到着早々厳しいね、ホズ。お前が視覚を取り戻したら、右に出るものはいなくなるだろうなぁ」
「いや、俺は腕っぷしが強いだけだ。兄上のような頭脳や精神力は持ち合わせていない」
「それでいいんじゃない? でも、元人間のエインヘリヤルに焼き餅焼いちゃだめだよ」
「……別に焼いてない。エインヘリヤルに嫉妬するほど、俺は狭量ではないつもりだ」
「ふふ、そっか。じゃあそろそろ屋敷に戻ろう。アクセルもついておいで」
バルドルは当たり前のようにホズに腕を貸し、ホズも当たり前のようにそれを掴んだ。
目が悪い相手に対してはごく普通のサポートだが、ホズの場合はそんなものなくても自分で歩いて行ける気がした。それでもバルドルの腕を掴んだのは、「こちらに見せつける」という側面があったのかもしれない。
――そんなことしなくても、バルドル様をとったりしないけどな。
アクセルは少し苦笑した。
わかっていても不安になる。それが恋煩いというものだ。大好きな兄を見知らぬ他人にとられないように……と、いろいろ牽制してしまう気持ちはアクセルもよくわかる。
こうしている間にも、俺の兄上は何をしているかわからないしなぁ……。
やや苦い気持ちでそんなことを思いつつ、アクセルはホズに話しかけた。
「ホズ様はお強いのですね。もし機会があったら、一度手合わせをお願いしたいです」
「……俺はかまわないが。兄上は許してくださるか?」
「もちろん、いいよ。お前たちの訓練、私も興味がある」
「庭が荒れるかもしれないが……」
「それは後で、みんなで掃除しよう」
「わかった。では、落ち着いたら手合わせしよう。もちろん、手加減はしてやる」
「あ……ありがとうございます……」
手加減か。そこまであからさまに舐められるのはいい気分にならないが、自分が未熟なのは事実である。
ここはホズの胸を借りると思って、手合わせしていただこう。
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