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第410話

「グラスの形、水の量、その下にはコースター、隣には皿……今鳴らした音だけでこれだけのことがわかるんだ。他にもパンケーキの焦げ付き、バターの香ばしさ、目玉焼きの匂い……繊細な味付けも、何でもわかる。隣からは兄上の体温も感じるし、正面からはきみの声も聞こえる。目が見えなくても……いや、見えないからこそ、より多くのものを感じ取ることができるんだ」 「…………」 「生きている者なら、必ず音や体温を発している。それを感じれば、距離や形は容易にわかる。物体だとしても、こちらから音を発してやれば、音の反射である程度のことは特定できるんだ。視覚がなくても日常生活には全く支障はないさ」 「はあ……そうなんですか……」  そうなんですか、としか言いようがない。  視覚を失うと、その分他の感覚が鋭くなると聞いたことがあるが、そこまで劇的に変わるものなのだろうか。音の反射で物の位置を特定できるなんて、アクセルにはとてもじゃないが真似できない。  ――手合わせしても、まるで勝てる気がしないな……。  下手したら兄上より強いかも……と想像しつつ、アクセルはパンケーキを口に運んだ。 ***  食後すぐに動くのは身体に悪いので、ちょっと食休みしてからアクセルは屋敷の庭に出た。  午後はホズと鍛錬する予定なのだ。到着早々申し訳ないと思ったが、バルドルも乗り気だったのでお言葉に甘えることにした。 「兄上が見守ってくださるなら、やりすぎることはないな」  庭に出てきたホズが開口一番そんなことを言ったので、ちょっと背筋が寒くなった。  ――てか、ここにはヴァルハラみたいな棺はあるのか……?  万が一鍛錬で死んでしまったら、すぐに復活できるんだろうか。死なないまでも、大怪我をしたらすぐに治してもらえるのだろうか。正直、かなり不安なのだが。

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