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第411話

「おや、そんなコテンパンにやるつもりなの?」  と、バルドルが苦笑する。 「あくまで鍛錬なんだから、ほどほどにしてあげてね。父上の戦士を勝手に殺すわけにはいかないし。彼のお兄ちゃんにも恨まれちゃうよ」 「うむ……しかし俺は元人間を相手にしたことがないから、力の加減を間違えてしまうかもしれん」  ……ますますぞっとしてきた。 「あの……一応確認ですけど、こっちにもヴァルハラみたいな棺や泉があるんですよね?」  恐る恐る尋ねたら、バルドルはしれっとこう言った。 「え、ないよ? 死んだらそのまま死者の国(ヘル)に直行だ」 「……えっ?」 「あそこは父上の箱庭だから、魔法が使い放題なだけ。そこから出れば普通に死ぬよ」 「…………」 「要するに、ヴァルハラの環境が特殊だってこと。私たち神も、本来は不死身じゃないからね。怪我もするし、運が悪ければ死ぬこともあるよ」 「だが兄上は、万物の加護があるだろう?」  と、ホズが口を挟んでくる。  そう言えば以前、何かの拍子にバルドルが「私はどんな武器で攻撃されても死なない」みたいなことを言っていた。そのことを言っているのだろうか。 「母上が勝手にそうしたみたい。いいのか悪いのかわからないけどね。でもお前は不死身じゃないから、大怪我しないように気を付けて」 「無論だ。死者の国(ヘル)に送り込まれるのは御免だからな」  ホズはそう言っているが、無論アクセルだって死者の国(ヘル)に送り込まれるのは御免である。  ――いつも通り手合わせしてもらおうと思ってたが……。  普段は斬られるのも怪我するのも怖くないが、蘇生できないとわかった途端、うっすらと恐怖が芽生えてきた。死者の国(ヘル)に行ったら、兄と会えなくなってしまう。  それだけは死んでも嫌だ!

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