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第429話

 それに、どちらかというと自分はまだ兄に助けてもらう方が多く、「自分が何とかしないと兄が死ぬ」みたいなシチュエーションに遭遇したことがなかった。だからどんな選択をするかは、その時にならないとわからない。  ……が、愛する兄を助けるためなら、視力くらい躊躇なく犠牲にしてしまう気もする。  そんなアクセルに、ホズは更に言った。 「俺とお前はよく似ているが、違うところもたくさんある。少なくとも俺には、お前のような純粋さはない。この先いろいろなことがあるだろうが、その気持ちは忘れてくれるな」 「……はい……」 「ではな。機会があったらまた会おう」  そう言って、今度こそホズはゲートをくぐっていった。  アクセルはバルドルと共に、ゲートが完全に閉じるまでその場で見送っていた。 「あーあ、いなくなっちゃった。またしばらく寂しくなるなぁ」  バルドルが残念そうに口を尖らせる。こういう仕草が、神にそぐわずお茶目だなと思う。  アクセルは微笑みながら答えた。 「また二ヶ月後に会えますよ」 「うん、そうだね。だから今回はいつもより寂しくないよ」 「俺も二ヶ月後が楽しみです」  兄に会うのはもちろん、できればホズにも挨拶をしたい。  ――純粋さを忘れるな……か。  自分が純粋かどうかはわからないけど、この性格は早々変わらないと思う。  アクセルは戻っていくバルドルの後ろをついて歩きながら、また鍛錬に勤しもうと誓った。 ***  それから二ヶ月が経った。  アクセルは日課の手紙をポストに投函し、ランニングしながらバルドルの屋敷に戻った。  ――ていうか、今日は手紙出す必要なかったな。  いつもの習慣でつい書いてしまったが、今日はヴァルハラで神々のパーティーが開かれる。全世界のゲートがオープンになるので、アクセルもヴァルハラに帰れるのだ。  つまり、直接兄に会えるということである。  ――早く会いたい……。  いつもよりペースを上げて帰り、自室に駆け込んで急いで汗を流して身支度を整えた。

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