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第441話
「……ヤドリギがない!?」
倉庫の奥に保管してあるヤドリギ。そのガラスケースが割られてしまっている。ガラス片がそこら中に飛び散っており、中にあったヤドリギがなくなってしまっていた。
「ここにあったのに! 盗まれてる!」
「……だね。犯人はロキ様っぽいけど」
「どうしよう……俺のせいだ……。俺が余計なことを喋ったから……」
青ざめ、膝を折りそうになる。
だが再び兄がぐっ……と腕を掴んできて、くるりとこちらを振り向かせてきた。そして真正面からこう諭された。
「悔やむのは後だよ。急いでヴァルハラに戻らなきゃ。バルドル様を守るんだ」
「あ、ああ……」
そうだ、落ち込んでいる場合じゃない。自分のミスでバルドルを危機に晒してしまったのだから、自分の手でバルドルを守らなければ。
――バルドル様……どうか何もありませんように……!
アクセルはすぐさま屋敷を出て、世界樹のゲートに飛び込んだ。
ヴァルハラに辿り着き、全力でパーティー会場まで走る。
パーティー会場では、集まった神たちが興奮した様子でそれぞれの武器を構えていた。中には剣や槍を中央に向かって投げつけている者もいる。一体何をしているのだろう。
「見ろ! 本当に万物の加護があるぞ!」
「よかったな、バルドル! これでアースガルズの未来も明るい!」
「よし、次はオレだ!」
と、巨人と思しき者が弓に矢をつがえ、中央めがけて放つ。巨人の矢なので一本が槍のような大きさがあった。
グサッと何かに突き刺さった音がした。巨人の壁に阻まれて中央の様子は見えなかった。
アクセルが焦っていると、中央からバルドルの声が聞こえてきた。
「もう……今矢を放ったの誰ー? こんな大きな矢使わないでー」
「いいじゃねーか、バルドル。どうせお前は死なねーんだからよ」
「ほら、もう一発!」
「おうふ……! 今度は剣? これは誰のー? 自分で取りに来てー」
どうやら会場の中心にはバルドルがいて、神々は手当たり次第に武器を投げつけて遊んでいるらしい。何をぶつけても死なないから、それを確認しあって喜んでいるのだ。
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