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第443話

「お前ねぇ……」  すると兄は少しだけ立ち止まり、くるりとこちらに向き直った。そして片手で腰を引き寄せると、後頭部を掴んで思いっきり口付けてきた。 「っ!? ちょ、兄う……んっ!」  人目もはばからず唇を吸われ、アクセルは違う意味で膝を折りそうになった。  目を白黒させていると兄は身体を離し、腕を掴んで何事もなかったように歩き始めた。 「あ、兄上……?」 「緊急事態だから我慢してるんだよ。本当は、今すぐにでも路地裏に連れ込みたいくらいなんだ」 「ろ、路地裏……!?」 「テキパキしてるのは、早く解決してお前とデートしたいからだよ。パーティーが終わったら、お前はまたバルドル様のところに帰っちゃうでしょ。だから……」 「……!」 「……というか、それくらい察してよ……もう」  ちょっと拗ねたように唇を尖らせる兄。  それを見たら、なんだか安心してしまった。兄らしからぬ要領のよさは、兄らしい下心があったせいだったのか。 「……そうだな、あなたは本物の兄上だ。変なこと聞いてすまなかった」  きゅんとした気持ちを押し隠しつつそう言ったら、兄はにこりと笑ってくれた。  気を取り直して、ホズを捜し回る。ホズ自身もあまり目立つ体格ではないから、これだけたくさんの神がいると見つけるのも時間がかかった。  早くしなきゃ……と周囲をきょろきょろ見回していると、 「あっ、あそこに……!」 「え、どこ?」 「あそこ! 輪の一番内側に!」  ようやくホズを見つけた。彼はバルドルの姿がよく見える位置にいた。目は見えなくても、兄の様子はなるべく近くで感じていたいようだ。  その隣にはもう一名別の神がいる。彼はホズよりもやや小柄で、顎がシュッと尖っておりシャープな輪郭をしていた。  その彼が、ホズにヤドリギを渡している。バルドルの屋敷にあった、あのヤドリギだ。  ということは、あれがロキか。

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