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第445話※
「兄上……? 兄上……どうしたんだ、兄上……?」
ホズがふらふらと広場へ歩み出る。倒れた兄は見えていないが、強烈な血の匂いと静まり返った会場に、ただならぬ雰囲気を感じているようだった。
するとロキが広場へ飛び出し、大声で叫び始める。
「なんてことだ! ホズがヤドリギを投げた! ホズがバルドルを殺した!」
「なっ……!? え……?」
「我等が光の神を殺すなど! とんでもない重罪だ! そんな奴は今すぐこの場で裁かれるべきだ!」
「ならオレが!」
輪の中から一名の神が飛び出し、素早くホズに斬りかかる。
「ホズ様!」
大声で叫んだが、やはり遅かった。
ホズは呆然とその場に立ち尽くしたまま、背中からバッサリ斬られてしまった。斬った剣が鋭かったのか、上半身と下半身が斜めに切り離されてしまう。
「が、は……」
ホズはドサッと地面に崩れ落ちた。胴体を真っ二つにされても、彼は数秒間生きていた。
血の海に沈みながらも、ホズは腕の力だけで上半身を引きずり、よろよろとバルドルの元へ這っていった。
「兄上……あに、うえ……」
バルドルは動かない。胸部にヤドリギ――ミストルティンを突き刺したまま、虚空を見つめている。
ホズは事切れた兄に寄り添い、掠れた声を絞り出した。
「兄上、すまない……ほんとに、すまない……」
そこまでだった。バルドルの死体に重なるように、ホズもそこで力尽きた。
「バルドル様……ホズ様……」
思わず小さく呟く。
あっという間の出来事だった。楽しいパーティーだったはずなのに、バルドルもホズも死んでしまった。
こんなはずじゃなかった。自分はただヴァルハラに帰って、兄に会いたかっただけだ。再会した喜びを分かち合って、二人で楽しい時間を過ごしたかった。それだけだ。
なのに、何故こんなことになった? 何故バルドルとホズが死ぬ羽目になった? 俺がヤドリギのことを喋ったから? 俺が偽物に騙されてしまったから?
――俺のせいで……?
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