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第447話
「アクセル!」
兄がガシッと腕を掴んでくる。両足を吸い込まれかけている弟を、片腕だけで支えていた。
――兄上……。
自分が招いたトラブルに、兄まで巻き込むわけにはいかない。
わざと手を振り払おうとしたら、兄はより強く腕を引き寄せてきて、耳元で囁いてきた。
「……一緒に落ちるよ。いいね」
「えっ……!? だ、だめだ! 兄上まで一緒になんて……!」
アクセルの言葉に反論するかのように、兄がしっかりとこちらを抱き締めてきた。そして覚悟を決めたように、自らホールの中に飛び込んだ。
「――――!」
叫び声も聞こえなかった。
例の洞窟と似たような無音の闇に包まれた後、ふわっと身体が浮くような感覚がした。
――兄上……!
アクセルは無意識に兄に縋りついた。しっかり抱き合っている感触はあったが、すぐに何もわからなくなった。
――兄上……バルドル様……ホズ様……。
様々な感情が渦巻いたまま、深い闇の世界へと落ちていった。
***
奇妙な夢を見た。アクセルの記憶にはない昔の夢だった。
――ここは……?
地平線まで見渡せるようなただ広い平野。大勢の人間に踏み固められた地面のせいで、草木はほとんど生えていない。ところどころ土が掘り返されたような跡があるが、人為的に掘り返したというよりは巨大な石や岩がぶつかって土塊が剥き出しになった感じだ。
――ここって、かつての戦場か……?
アクセルはぐるりと周囲を見渡した。
特徴のない荒野だが、何となく見覚えがある。生前に何度もここで戦ったせいか、土の匂いが懐かしかった。
――兄上が亡くなってからは、戦に出ることしか考えてなかったな……。
生前の兄がどんな風に戦っていたのか、少し知りたくなった。今でもぞくぞくするほど強くて美しいが、生前はまた違った戦い方をしていたのかもしれない。傷がすぐに治るヴァルハラとは違い、生前はなるべく怪我をしない方が有利だったからだ。
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