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第451話

 ただ、ほとんどの大木は薄い灰色に染まっており、植物独特の瑞々しさは感じられない。死んで石になってしまったかのように、静かにそこに鎮座していた。  ――確かに、森というにはあまりに寂しすぎる……。  ヴァルハラの森と比べてみても、全体的に灰色っぽくて物悲しい雰囲気がある。これだけ広大な森なら動物の一匹や二匹いてもおかしくないのに、その気配すら感じなかった。  死んだ動物が同じように死者の国(ヘル)に来るのかはわからないけど、生き物が何もいないのは、それだけで空虚で寂しい感じがする。  もっとも、「死ぬ」というのは本来、空虚で寂しいものなのかもしれないが……。 「あ、起きたのかい?」  やや遠くから兄の声が聞こえて、アクセルはそちらに目をやった。  兄が両手いっぱいに武器を抱えてこちらに走ってくる。その中には例のヤドリギ――ミストルティンもあった。 「ごめんね、これ探すのに手間取っちゃって。絶対近くにあると思ったけど、この辺似たような地形ばかりでさ。ちょっと迷っちゃった」  集めた武器を切り株の上に置き、よいしょ、とよじ登ってくる兄。 「でも見つかってよかったー。武器がないといざという時に何もできないもんね。間違ってないと思うけど、念のために確認し……」  いろんな感情が噴き出してきて、アクセルは兄に抱きついた。  衝撃的な事件が一度に起こり過ぎたのかもしれない。つい昨日まで「パーティー楽しみ」と浮かれていたのに、あっという間に死者の国(ヘル)に叩き落されたのだ。自分の容量を完全にオーバーしてしまって、どうしていいかわからなくなってしまった。  兄がいなかったら喚き散らして発狂していたかもしれない。 「ありゃ、どうしたの? 急に不安になっちゃった?」 「うう……兄上ぇ……」 「よしよし、大丈夫だよ。お兄ちゃんはここにいるからね。私はいつでもお前と一緒。だから安心して」 「…………」 「もう、泣かないの。今は感傷に浸ってる場合じゃないからね。早く涙拭きなさい」 「……別に泣いてない」  ぐいっと目元を乱暴に拭い、アクセルは顔を上げた。

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