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第453話
早足の兄について行きながら、その背に疑問を投げつける。
「あの……兄上、地上に戻るのは大賛成なんだが、方法は知っているのか?」
「うん、多分ね。全ての世界は世界樹 で繋がっている。死者の国 は世界樹 の根っこにあたる世界なんだ。普段は行き来できないけど、ゲートが開くタイミングはある。そこを狙う」
「そうか……。しかし、やけに詳しいな」
「ヴァルハラの図書館に、『この世界の成り立ち』みたいな本があったからね。暇な時に読んだけど、お前は借りたことないの?」
「……えっ?」
そう言えば、図書館から借りたものの読めずにそのまま返却してしまった本がある。興味深そうな内容だったのに、いろいろあって読む時間が取れなかったのだ。
――もしやあの本に、この世界のことが書いてあったのか……?
アクセルは視線を落として髪を掻いた。
何故ヴァルハラは、そういう大事な書物を無造作に図書館に置いているのだろう。もっとこう……例えば世界樹 の前にでも教科書代わりに並べておけば、皆手に取って読むと思うのだが。
――公式の教科書として配布されていれば、俺だって絶対目を通したのに……。
自分の住んでいる世界について、何も知らずに生活するのは意外と恐ろしい。いざという時にどうしていいかわからない。
今まではヴァルハラの中だけで暮らしていたけど、今回のようにいろいろな世界に飛ばされた場合、何も知らないと無力だなと思う。
こんなことになるなら、鍛錬の合間を縫ってでも、ちゃんと本に目を通しておくんだった……。
「それにしても、ここ同じような木ばかり並んでて道がわかりづらいね。こっちで合ってたかな?」
そう言って、兄が灰色の木の幹に耳を当てる。一体何をしているのだろう。
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