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第454話
「……兄上?」
「死者の国 ではね、出口に近づけば近づくほど、生きている木が増える。だからこうして、時々耳を当てて生きてるかどうか確認しなきゃならないんだ」
「耳を当てるだけで、生きてるかわかるのか?」
「それが、私にはよくわからないんだよね……。ねえ、お前は聞こえる? もしこの木が生きていれば、微かに水を通している音が聞こえるんだけど」
「どうかな……」
誘われるまま、アクセルも兄の真似をして木の幹に耳を当てた。
肌触りは石のようにひんやり冷たかったが、目を閉じてじっと集中していたら、幹の中からぴちゃん、と水が滴る音が聞こえてきた。
一度音が聞こえると他の音も拾えてきて、水滴が爆ぜる音以外に小さくこぽこぽと水がせり上がっていく音が響いてくる。
アクセルは顔を上げ、まじまじと灰色の木を見上げた。
「……すごいな、こんな木でも水を通してるのか」
「じゃあ生きてるってこと? ありがとう、お前耳いいね」
「あ……それは多分、ホズ様から目に頼らない戦い方を教わったおかげで……」
「そうなんだ? それはいいこと教わったね。お前はまだまだ強くなれそうだ」
「…………」
「ほら、行くよ。あまり時間もないし」
兄に促され、やむなく歩を進める。
早く地上に戻らなければならないのはわかるけど、バルドルやホズに無性に会いたくて仕方がなかった。戻る前に、彼らに一言詫びを入れたかった。
「兄上……バルドル様とホズ様にはどこで会えるかな」
「それはわからないなぁ……死者の国 は広いからね」
「……だよな。でも、このまま何も言わずに地上に戻るのは……」
思わずアクセルは足を止めた。そして言った。
「ホズ様、厳しかったけど優しい神だったんだ。目が見えないのに俺よりずっと強くて、『目に頼らない戦い方』を教えてくれた。そのおかげで俺は、他の感覚を研ぎ澄ますことを覚えられたんだ」
「そっか……」
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