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第463話

 急に不安になってきて、アクセルは兄を支えるように手を貸した。 「兄上、本当に大丈夫か? 具合が悪いのを我慢してるんじゃ」 「……平気だよ……地上に戻れば治るから……」 「でも……!」 「さあ……早く地上に戻ろう……生きてる人間が、死者の国(ヘル)に長居しちゃいけないよ……」 「兄上……」  何故兄だけがこんな風に体調を崩しているのかわからない。自分はまだこの世界について知らないことが多すぎる。  だけど、今目の前で兄が苦しんでいるのは事実だ。自分が「バルドルに会いたい」などとわがままを言ったせいで辛い思いをさせてしまったのかと思うと、余計に申し訳なさが募ってきた。  ――よし……。  アクセルはくるりと兄に背を向け、弱っている身体をひょいと背負った。自分と同じくらいの体重かなと思っていたけれど、意外と軽かった。 「地上に戻るまでの辛抱だ。あと少し、我慢してくれ」 「そんな……大袈裟だよ」 「いいんだ。俺だって怪我した時兄上に運んでもらったし。俺のわがままで悪化してしまったみたいだから、これくらいさせてくれ」 「…………」  兄が軽く身じろぎした。  やや戸惑っていたようだったが、やがて諦めたように体重を預け、後頭部に額を当ててきた。 「お前、本当に大きくなったね……。弟におんぶしてもらう日が来るなんて思わなかったよ……」 「なんだよ、今更。これでも兄上と同い年なんだぞ? 鍛錬だって兄上よりしてるんだからな……多分」 「そうだね……お前は私よりずっと頑張り屋だ……。地上に戻って手合わせしたら、一本取られちゃうかもなぁ……」 「そうでありたいな。……ところで、出口はこっちで合ってるんだろうか」  出口に近づけば近づくほど、瑞々しい木が増えていくという話だった。  それを念頭に周りを見回し、より青々とした方向へ足を進める。心なしか、緑が増えていくにつれて空気も美味しくなっていくような気がした。

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