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第466話
……って、今はそういうことを気にしている場合ではない。
「すまない、急いでるんだ。何か用なら手短にしてくれ」
アクセルは改めて兄を背負い直し、その女性に言った。
兄は先程から背中でおとなしくしている。意識はあるみたいだが、呼吸はやや荒っぽかった。生きている人間にとって、深部の瘴気は余程身体によくないものらしい。
出口に近いので空気はだいぶよくなっているはずだけど、早く地上に出るに越したことはない。
「……あんた、私のこと知らないの?」
「申し訳ない、俺はここに来たのは初めてなんだ。きみはここでは有名人なのか?」
「……。あんたみたいな人間、生まれて初めてよ」
「……すまない、いろいろ無礼を働いてしまったみたいで」
アクセルは内心ひやひやした。
相手の気を悪くして、出口を封鎖されたらどうしよう。一刻も早く兄を看病しなければならないのに。また自分のせいで兄を窮地に追いつめる羽目に……。
「……まあいいわ。私はヘル、ロキの一応娘よ」
「えっ……!?」
「あんたも名乗りなさい。それがマナーというものよ」
「あ、ああ……俺はアクセル、元人間のエインヘリヤルだ。こっちは兄のフレイン」
兄の代わりに挨拶したら、彼女――ヘルは思いもかけないことを口にした。
「フレインのことは知ってるわ。以前もここに来たことあるもの。生きたまま来るのはこれで二回目かしらね」
「えっ……?」
「見たところ、瘴気にやられたみたいだけど。そりゃあ、何の装備もなしで出口まで上ってきたらそうなるわ」
「ちょっと待ってくれ。兄上が二回目? どういうことなんだ?」
何かの間違いだと思って尋ねたら、ヘルは腰に手を当てて答えた。
「詳しいことは知らないわ。でも何年か前に一度、生きたままここに落ちてきたことがあったの。一回目だから、さほど体調も崩れずにそのまま帰ったけどね」
「え……」
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