「ここは死者の国(ヘル)、生きたまま来るところじゃないのよ。死んで魂になった者が来る分には問題ないけど、そうじゃなければ徐々に瘴気に蝕まれていく。一度目より二度目、二度目より三度目の方が、より瘴気の濃い深部に落とされるの」 「…………」 「フレインの方が体調悪くなったのは、単に落ちた回数が違うからよ。生きたままここに来ちゃいけないって、以前忠告したはずなんだけどねぇ……何でまた落ちてきたんだか」 　そうか、そういうことだったのか。ずっと腑に落ちなかったが、ようやく納得がいった。 　アクセルは視線を落とし、呟くように言った。 「……俺があまりに頼りなかったんだろう。確かに俺は世間知らずだし、この世界について知らないことが多すぎる。それが心配なのはわかるけど……」 「確かにあんた、いかにも世間知らずっぽいわ。私のことを知らないくらいだし」 「そうだな……。今後は鍛錬だけじゃなく、ちゃんと勉強もしなければと思う。まあ、あと数ヶ月人質期間も残っているんだが……」 　もっとも、当のバルドルが死んでしまったのでどうなるかわからない。 　別の神の元に預けられるかもしれないし、人質どころじゃなくなるかもしれない。何しろ、ラグナロクがすぐそこまで迫っているという話だし。 　するとヘルが腕を組んだ。 「そう言えば、バルドルとホズがさっきここに落ちてきたわね。詳しいことは聞かなかったけど、どうせロキに嵌められたんでしょう」 「！　……何故わかるんだ？」 「わかるわ。ここに来る者は大抵そうだもの。ロキに騙されたり、そそのかされたり……そんなヤツばかり」 　やれやれと大袈裟に首を振った後、少し投げやりに言う。 「でも私個人としてはどうでもいいかな。正直、父親と言ってもほとんど他人だし。むしろいろいろ迷惑かけられて困ってるのよ、こっちも」 「そう……なのか？」