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第468話

「そりゃそうよ。あいつが勝手なことしてるせいで、死者の国(ヘル)にどんどん死者が送られてくるんだもの。まったく、勘弁して欲しいわ」 「はあ、なるほど……」 「今回のバルドルの件だってそう。バルドル本人は何とも思っていなかったけど、ロキにとってはそれが気に食わなかったのね。別に殺すほどの理由があったわけじゃなかったのに」 「……え? 理由はなかったのか?」 「ええ、なかったわね」 「いや、でも普通はもっとこう……ちゃんとした動機があるんじゃ」 「ないわ。本当に気に食わなかっただけ。そんなつまらない理由で、皆から愛されていた光の神を殺しちゃうの。ロキはそういうヤツなのよ」 「…………」  アクセルはそっと目を伏せた。  兄からも――あくまで推測だが、「単に気に入らなかっただけじゃないか」と言われていた。だから改めて理由を聞かされても、思ったより衝撃は受けなかった。  だがそれと同時に、それが信じられずにいる自分もいた。  ――殺意って、そんな簡単に抱けるものなのか……?  アクセルにとって「誰かを殺す」のは、余程の恨みがあるか、戦場で敵として対峙した時にのみである。それ以外の私生活で殺意を抱いた経験はないし、そんなことをしてしまう人にも出会ったことがなかった。  だから、「ただ気に入らなかった」程度の軽い理由で人を殺してしまえるなんて、到底信じられなかった。 「……ひどい話だな。他人の命を何だと思っているのか」 「さあね、ロキの考えは私にはわからないわ。ただ、今回に関してはホントに馬鹿なことをしたと思う。バルドルを殺したら、ほとんどの神を敵に回してしまうもの。オーディンでさえ、味方になってはくれないわ」 「……だろうな」  バルドルはオーディンの愛息子だと聞いたことがある。  いくら義兄弟の契りを交わしていたとしても、最愛の息子をそんなつまらない理由で殺されてしまったら、どんなに心の広い神であっても許すのは難しいだろう。

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