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第469話
ヘルは腰に手を当てて言った。
「案外、ロキがラグナロクの引き金になるかもしれないわね。世界を滅ぼすほどの戦争……アース神族と巨人族が戦争を始めるには十分なきっかけだわ。もっとも、ロキが罰を与えられる方が先でしょうけど」
「そうか……」
戦争のきっかけ……と言うなら、確かにこれ以上の口実はない。
本当はラグナロクなど起こって欲しくないけれど、既に歯車は回りかけている。自分たちエインヘリヤルも既に神器を与えられてしまったし、いつ戦争が起こってもおかしくないということだ。
近いうちに岩みたいな巨人たちと戦わなければならないのかと思うと、戸惑いと不安が湧き起こってくる。
――今までとは、まるで違う戦いになるだろうな……。
生き延びられるか自信がない……が、易々と死んでやるつもりもない。兄と一緒ならどうにかなる気もするし、先のことをずっと心配していても仕方がない。その後のことは、また後で考えればいい……。
アクセルはもう一度兄を背負い直した。そして、ヘルに向かって言った。
「いろいろ話してくれてありがとう。おかげで随分頭がスッキリした。それで……」
本題は何なんだ、と言外に訴える。
背中の兄はおとなしくしているが、そろそろ地上に帰らないとマズい気がした。
ラグナロクが始まるなら尚更、ここでぼんやりしているわけにはいかない。戦い前の準備は山ほどある。
すると彼女はやや呆れた顔で言った。
「……あんた、本当に馬鹿正直ね。喋っている間に出口に入っちゃえばよかったのに」
「いや、それはちょっと無理なのでは」
「そうね、実際は無理だけど。でもやろうとしたヤツは何人も見てきたわよ。あんたみたいに真面目に会話してくれる人は初めてだわ」
「は、はあ……そうですか……」
「まあいいわ。……でね、私としては一度ここに落ちてきた者をタダで返すわけにはいかないの。ちゃんと試練をクリアしてもらわないと困るのよね」
「し、試練か……」
しまった、面倒なことになってきた。
これだったら話している間にこっそり出口に入っちゃえばよかったかも……。
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