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第470話
アクセルは言った。
「あの……俺はいくら試練を受けてもいいんだが、兄上だけは勘弁してもらえないだろうか……? 兄上はこの通り体調が悪くて、とても試練を受けられる状態じゃないんだ」
「そんなの私が認めると思う? 体調が悪かろうが大怪我をしようが、ここを出たいなら例外はないわ」
「でも……」
「……いいよ、アクセル。試練を受けろというなら受けてやろうじゃないか」
背中の兄が初めて口を開いたかと思うと、地に足をつけてきた。顔色はよくないが、意外と足腰はしっかりしていた。
「兄上、大丈夫なのか? 無理してるんじゃないか?」
「平気だよ。お前がおんぶしてくれたおかげで、だいぶ体力も回復した。試練のひとつやふたつ、どうにかなる」
「ふふ……どうにかなるなんて、舐められたものね。そんなに弟と離れ離れになるのが嫌なのかしら?」
挑発的な台詞に対し、兄は当たり前のようにこう答えた。
「嫌ですよ。私にとって弟は大事な宝物ですから。せっかく数ヵ月ぶりに会えたのに、また離れ離れなんて悲しすぎるでしょう。二人でやりたいこともたくさんありますし」
「……兄上」
しっかりと肩を掴まれ、アクセルはすっと目を逸らした。
そこまでハッキリ言われるとなんだか恥ずかしい。アクセルだって兄と離れ離れになるのは嫌だが、兄までもがそんな風に思ってくれているのは意外だった。兄なら「別々の世界でも健やかに生きようね」くらい言いそうなものだが。
するとヘルがやれやれと手を振った。
「そう、仲のいい兄弟で羨ましいわ。うちなんか兄弟同士交流もないもの」
「そうなのか?」
「姿形がまるで違うからね。フェンリルなんて巨大な狼だし、ヨルムンガンドなんて大蛇だし……まあ、巨人族なんてどこもそんなもんよ」
「そうか……なかなかユニークな兄弟のようだな。でも、お互い元気で生きていればそれでいいんじゃないか?」
そう言ったら、彼女は目を丸くした。
……何かおかしなことでも言っただろうか。
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