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第472話
「ここから少し行ったところに、瘴気を出している石があるの」
「石か」
「そう。階層の深いところではそのまま放置でいいんだけど、ここは出口に近い浅いところでしょ? 放置しすぎると瘴気が濃くなりすぎちゃってね。時々見つけて破壊する必要があるの。あんた達にはそれをやってもらうわ」
「ああ、わかった……。もちろん俺はやらせてもらうが……」
チラリと兄の顔色を窺う。「平気だ」と言っていたものの、まだ身体は本調子ではないはずだ。そんな状態で瘴気を出す石に近づいていいものかどうか。
すると兄はヘルに向かって微笑みかけた。
「それが女王様からの試練なら、謹んでお受けいたしますよ」
「……そう、せいぜい頑張って。ある程度破壊できたらもう一度ここに戻って来なさい」
「はい、女王様」
丁寧に一礼すると、兄はくるりと踵を返してその場を離れた。
アクセルも急いで兄の後を追った。
「兄上、待ってくれ。そんな急に歩き回っていいのか? 俺に任せて休んでいてもいいんだぞ?」
「死者の国 にいたんじゃ、どこで休んでいても瘴気が身体の中に入ってしまう。完全に抜くには、早いところ地上に戻るのが一番だからね。石を割るなら二人いた方がいいだろう?」
「それはそうだが……」
「それにしてもお前、あの女王様と顔合わせててよく平気でいられるね。気分悪くならないの?」
「いや、別に……。確かに見た目は変わってるけど、慣れればどうってことないし」
「そういう意味じゃない。腐った左半分から出されている特殊な瘴気のことだよ。私は長くは耐えられないけど、お前は平気なんだね」
「えっ……?」
兄がお気に入りのマントを外し、長細く畳んで口元に巻き付けている。マスク替わりのつもりなのだろう。
自分も何か余っている布で口元を覆った方がいいんだろうが……。
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