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第476話
「まあとにかく、彼はとても美しい神様らしい」
と、兄が言う。
「バルドル様も相当美しかったけど、フレイ様は神々の中で最も眉目秀麗って言われてるんだってさ。双子の妹にフレイヤって女神もいるけど、そっちもすごく美人らしいよ」
「へえ……そうなのか。兄上、よく知ってるな」
「それも図書館の本に書いてあったからね」
「でも普段はそこまで詳細にいろんなこと覚えてないだろ。他人の名前なんかすぐ忘れちゃうくせに」
「そうでもないよ? 大事なことはちゃんと覚えてるよ」
「俺の友人の名前は覚えてないじゃないか。チェイニーとはたまに会話してるんだろ?」
「ああ、あの赤毛の子ね。チェイニーだっけ? よく手紙を届けてくれるんだけど、なかなか名前覚えられないんだよねー。何でだろう?」
「……知らんけど。というか、チェイニーが手紙届けてくれていたのか? 俺が人質に出ている間も?」
「そうだよ。最初の一ヶ月くらいは届けに来てくれたんだけど、神器選考会が始まってからはそれどころじゃなくなっちゃった」
兄が少し視線を落とし、苦笑した。
「お前のことだから、きっと毎日手紙を書いてくれてたんだろうね。全部読みたかったのに、残念だなぁ……。あの手紙、どうなったんだろう……」
「手紙もそうだが、ヴァルハラの家は全部潰されてしまったからな……。戻ったところで、どこで生活すればいいのかわからない」
アクセルも、岩にナイフを打ち込みつつ少し顔を曇らせた。
なるべく早く地上に戻らなければいけないのは事実だ。
だが、その後は? 戻ったところで行くあてはあるのか? 身体を休める場所や、ラグナロクの戦闘準備を行える場所は? そもそも、基本的な衣食住は約束されているのか? 今はそれすらも怪しいんじゃないか……?
「兄上は、神器選考会の最中はどうやって過ごしていたんだ? 家には帰れなかったって言ったよな?」
そう尋ねたら、兄はさらっとこう答えてきた。
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