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第480話

「…………」 「本当にすまない……肝心なところで役に立たなくて」 「じゃあ、自力で使い方を覚えるしかないね」  兄がやや呆れた顔で腰に手を当てる。 「どうすれば変形させられるのか、手探りで身に付けよう。バルドル様がそれを使ったことはあった?」 「いや、俺が知る限りではずっと地下倉庫に封印したままだった。唯一見たのは、ホズ様が投擲した時くらいで」 「じゃあ、その時ホズ様はどんな風に投げていた? 何か変わったことは?」 「特になかったと思うが……。何気なくポイッと放り投げていたし」  そう答えたら、兄はますます呆れた顔になった。どことなく怒っているようにも見えた。 「……お前ね、もう少し自分で何とかしようって気はないの? せっかくの神器も『使い方がわかりません』じゃ宝の持ち腐れじゃないか。そんなんじゃ、いつまで経っても地上に戻れないよ」 「わ、わかってるよ……。今考えているところだから、もう少し待ってくれ」 「はあ……そんな悠長に待っている時間もあまりないんだけどな。これだから能天気って言われちゃうんだよ。私の危機感を少し分けてあげたいくらい」  やや口調が荒っぽくなっている兄。  体調も万全でないし、早く地上に戻りたいし、弟が頼りないのもわかるけど……。  ――だからって、俺に八つ当たりされても困るんだが……。  それなら一緒に落ちなければよかったんじゃ……とも思う。こっちは兄を巻き込まないように配慮したのに、わざわざ一緒に来たのは兄の方ではないか。  死者の国(ヘル)に落ちるのが二度目だということは自分でもわかっていたくせに、それでも落ちてきたのなら、自業自得と言えなくもない。  ――いや、そんなこと考えちゃいけないな……。  自分が頼りないのは事実。一人でここに来ていたら心細かったかもしれないが、兄が一緒にいてくれたからかなりホッとしたのだ。  多少八つ当たりされたくらいで、反発することはない。いつも甘えさせてもらっている分、ここは自分が辛抱しなくては。

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