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第492話

「それは本人でないとわからない。でも、もし私がそのヤドリギをお前に投げたら、バルドル様と同じことが起こるかもしれないね」 「えっ……?」 「他人の心なんてそんなものさ。親しい人であればあるほど、気持ちは複雑になっていくんだよ」 「…………」  サラッとした口調だったが、アクセルの心にはかなり重く響いた。正直、グサッときた。  ――兄上、それは……俺に殺意を抱くこともあるって言ってるのか……?  そんなこと考えたくない。兄もちゃんと、自分のことを好きでいてくれると思いたい。  今までの言動を見る限り、兄が自分を愛してくれているのは明らかだ。そうでなかったら、リスクを承知で一緒に死者の国(ヘル)に堕ちたりしない。  だけど、だけど……。 「俺さえいなければ……」 「えっ?」 「……いや、何でもない」  さすがに直接ぶつけることはできなかった。  でも、アクセルの中ではあるひとつの回答が出来上がりつつあった。  ――「弟さえいなければ」って思ったこと、一度や二度じゃないんだろうな……。  兄はもともと一人っ子で、ずっと弟を欲しがっていた。それが十一年経ってようやく弟ができて、兄はすこぶる喜んだそうだ。実際、よく面倒を見てもらったし、生前からずっと可愛がってもらってきた。  だけどその反面、手がかかって面倒だと思うこともあったはずだ。  弟がピンチに陥れば危険を顧みず助けてくれるし、自分と同じ目に遭わないようにとヴァルハラの治安を整備してくれた。他にも数えきれないほど世話になっている。  でもそれは……アクセルがいなければ、全部起こらなかったことだ。  一人っ子の寂しさはあったかもしれないが、弟さえいなければ兄はもっと平穏でのんびりした生活が送れたはずなのだ。「なんで私ばかりがこんな目に」、「弟がいるせいでいつも私が貧乏くじ」と感じることもあったと思う。  アクセルがもっとしっかりしていれば、兄の手を煩わせることもなかったのだろうが……。

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