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第494話

 だから、見返りを求めてはいけない。自分が愛しているからといって、相手にも同じような愛を求めてはいけない……。 「いきなり何を言い出すんだい? お前が私のこと大好きなのは、最初からわかってるよ」  兄が軽やかに笑い飛ばしてきたので、さすがにちょっとムッとした。こっちは真面目に言っているのに、笑うことないじゃないか……。 「兄上がいきなり『バルドル様と同じようなことが起こるかも』って言い出したんだろう」 「そうだよ。でもそれってそんなに悩ましいこと?」 「はっ……?」 「お前は私が大好きだし、私もお前のことが好きだ。それでも時には喧嘩することもあるし、イラッとすることもある。さっきも言ったけど、それが普通じゃない?」 「それは……」 「もし一切喧嘩しない兄弟がいたとしたら、それは仲がいいんじゃなくてお互い無関心なだけだよ。無関心だから会話することもないし、会話しなければそもそも喧嘩にすらならないからね」 「…………」 「いろいろ思うところはあるけど、『ある一瞬の感情』だけを切り取って、それをその人全体の感情みたいに錯覚するのは間違いだ。何かの拍子に一瞬だけ殺意が芽生えることはあっても、総合的には『この人がいなくなったら嫌だ』って思う。それが当たり前でしょう」  兄は肩越しにこちらを振り向き、にこりと微笑んだ。 「だからもう、ごちゃごちゃ悩むのはやめなさい。お前は真面目だから、ひとつのことを突き詰めて考えすぎなんだ。私みたいに、もっとおおらかに生きた方がいいよ」 「……兄上は逆に、何事にもドライすぎるんじゃないか?」 「それ、よく言われるなぁ。弟と足して二で割ったらちょうどいいのに、って。面白いくらい凸凹だよね、私たち」 「……そうだな」  アクセルも小さく笑みを返した。  兄と話していると、今まで考えていたことがだんだんどうでもよくなってくる。何でこんなことで悩んでいたんだろうと、自分がアホくさくなってくる。  ――本当に、兄上らしいよ……。

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