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第497話

「ここでやらかすのはやめてくださいよ。一応、神聖な場所なんですから」 「す、すまない……。いや、俺は決してそんなつもりじゃ……」 「言い訳は結構です。そのはしたない格好で出歩かれても迷惑なんで、これ着てください」  と、黒い布を差し出してくる。  何かと思ったら、教会の神父が着ていそうな黒服だった。……いや、魔術師のローブにも似ているか。 「あ、ありがとう……助かったよ」  素直に受け取り、サッとそれを羽織る。  わざわざ衣装を貸してくれるなんて、ロシェもなかなか気が利くではないか。 「……それで? 実際のところ何の用なの? まさか衣装を貸すためだけに声をかけたわけじゃないよね?」  兄がそんなことを言い出すので、アクセルは「えっ?」と彼に聞いた。 「他に何かあるのか?」 「そりゃあるでしょう。今まで彼らが下心なしに近づいてきたことなんてないよ」 「でも、今更下心も何もないんじゃ……」  確かめるようにロシェを見たら、ロシェは軽く鼻を鳴らした。 「今回ばかりは弟さんの言う通りです。今更下心なんて意味はないですよ。ここはまだ静かなものですが、ヴァルハラなんてほとんど焼け野原です。さっさと帰って見てみるといいですよ」 「えっ……? 焼け野原って、本当なのか?」 「当たり前じゃないですか。もうラグナロクは始まっています。あのパーティーでバルドルを殺されたオーディンが怒って、巨人族に宣戦布告しましたから。じきにここも戦場になると思いますよ」 「そんな……」  神殿の周りは静かなものだ。  だけど一歩外に出たら、神と巨人の戦争が行われているのか。ヴァルハラはもう一面焼け野原になってしまったのか。  ――みんな、どうなったんだろう……。  ミューやジーク、ユーベル等の上位ランカーはそう簡単にやられないと思うが、同期のチェイニーや、うさぎのピピは心配だ。  確かめに帰りたいが、今は世界樹のゲートも開いてないし……。

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