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第498話

「なので、あなた達はさっさと立ち去った方が賢明です。あなた達はあくまでオーディンの眷属(エインヘリヤル)でしょ。ここにいると巨人族とみなされて、僕らもろとも潰されますよ」 「立ち去るって言ってもどうやって? ゲートは開いていないんだぞ?」 「ゲートを通らなくても、ヴァルハラに帰ることはできます。かなり時間はかかりますけど」 「えっ……?」  目を丸くしていると、ロシェは遠くに見えている深い山を指さして言った。 「あの山、実はヴァルハラの山と繋がっているんですよ。なので、日の出の方向にひたすら歩いて行けば、いつかはヴァルハラに辿り着けます。僕もゲートが開いていない時、よく山を通って行き来していたものです」 「そ、そうなのか……」  今更ながら、ロシェと初めて会ったのは山の麓の森の中だったことを思い出す。  あの時は罠にかけられてしまったけれど、今思えばロシェは山で迷子になるような人には見えなかった。どことなく「よく山を歩いていそうな雰囲気」があった。  それも道理だな……と、改めて納得する。 「ちなみに、片道どのくらいかかるんだ?」 「さっさと歩けば一日で済みますが、慣れてない人だと少なくとも三日はかかりますね」 「……え」 「当たり前じゃないですか。本来ならゲートを通って行き来する世界なんですよ? そう簡単に辿り着けるわけないでしょう」 「そ、それはそうだが……」 「それに、あの山は似たような景色が続いてますからねー。慣れてない人だと迷って出られなくなるかもしれませんねー。神獣や怪物も多いし、死ぬ可能性もありますよねー」  ……ますます不安になってきた。  ――そんな山を通って戻らないといけないのか……?  チラッと兄に目をやったら、兄はやや首をかしげて顎に手を当てていた。一体何を考えているのだろう……。

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