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第499話

「まあ、それしか方法がないならしょうがないかなぁ。ゲートが開くまでのんびり待っているわけにもいかないしね」 「うん……兄上がそう言うなら、俺も賛成だが」 「でも、道がわからないのは問題だな。きみ、案内してくれるよね?」  兄が軽く圧をかけたのだが、ロシェは素知らぬ顔でそっぽを向いた。 「嫌ですよ。それ、危険な道を通って捕虜を敵陣に送り返すようなものですよ? そんなことをしてやる義理はありません」 「へえ、ここで断るんだ? それは困っちゃうなぁ……」 「あ……ま、まあ無理だって言うならしょうがないじゃないか。代わりに地図でも貸してもらえば」  キレそうな兄を宥めつつ、アクセルはロシェに目をやった。  けれど、彼の反応はやはり冷ややかだった。 「地図なんてあるわけないじゃないですか。山を通るのは、知る人ぞ知る裏技みたいなものですよ? そんなの書き記せるわけないでしょ」 「ええ……? でもそれじゃ、きみはどうやって裏技を身につけたんだ?」 「昔は一緒に行ってくれる人がいたんですよ。その人について行って覚えました。中には人に頼らず、森の獣を目印にして行き来していたヤツもいましたけど」 「獣……」 「そういうわけですから、あなた方は獣を頼りに頑張ってください。僕はこれから伝令兵として仕事しなきゃならないんで」 「伝令兵?」  怪訝な顔をしたら、ロシェはニヤリと口角を上げた。 「僕はもともと、ヴァルハラを始めとしたアース神の世界(アースガルズ)の内情を探るのが仕事だったんです。スパイみたいなもんですね。戦争には正確な情報が欠かせませんから、こう見えて意外と忙しいんですよ。あなた達を見つけたのも、仕事のついでです。他意はありません」 「……そうか。でもそんなこと、俺たちにペラペラ喋っちゃって大丈夫なのか?」 「かまいませんよ。所詮あなた達はエインヘリヤル、アース神にとっては一兵卒扱いの駒でしかありません。そんな駒が何か重要な情報を知っていたとしても、神は誰も気にしませんよ」 「それは……」

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