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第502話
「そうだねぇ……。ヴァルハラでの宴が懐かしいよ。一緒に飲んだり踊ったり……楽しかったなぁ」
「……そうだな」
初めて参加した宴では、ユーベルの剣の舞に巻き込まれて大変だった。ただの少年だと思っていたミューが、ランキング一位の戦士だと知って度肝を抜かされた。
そして、あの宴で兄との絆が一層深まった気がする。
――いつかまた、ああいう宴を行える日が来るだろうか……。
そんなことを考えかけ、こっそり苦笑した。
今やヴァルハラは、ほとんど更地状態だ。そんな状況で宴も何もないだろう。そもそも、ラグナロクを無事に乗り越えられるかすらわからない。残念ながら戦死してしまう可能性だってあるのだ。どんなに強い戦士でも「絶対に生き延びられる」という保証はない。戦争とはそういうものだ。
だけど、もしみんなで無事に生き延びられたら、またああいう宴を……。
「ねえ、アクセル」
「……えっ?」
「今、水の音聞こえなかった?」
「えっ、水?」
唐突にそんなことを言われ、アクセルは慌てて耳を澄ませた。
集中力を高めるために少し目を閉じていると、遠くから微かに川のせせらぎが聞こえてきた。そこまで大きい川ではなく、湧き水の源から流れているような音である。ちょろちょろちょろ……。
「ちょっと行ってみない? いい加減水浴びもしたいでしょ」
「ああ、そうだな。綺麗な水だったらいいんだが」
飲料水として使えるほど綺麗な水だったら万々歳だ。もっとも、どうしようもない時は茶色く濁った泥水を啜ることもあるから、あまり贅沢は言えないが。
音を頼りに水源に近付いていく。喉の渇きを癒せるかもと思ったらいつの間にか早足になっていて、身体に葉や小枝がくっついたことも気にならなかった。
数分歩き、茂みが途切れてやや開けた場所に出る。
「あっ、あった……!」
嬉しくなり、アクセルは水際に駆け寄った。そして、そこを流れている透明な水に手を浸してみた。ちょっと冷たい。
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