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第503話

 ――気持ちいい……。  茶色く濁った水だったら逆に汚れそうだったが、透明度の高い湧き水でホッとした。魚などは見当たらないけれど、川幅の広いところなら水辺の生物がいてもおかしくない。  これくらい綺麗なら、飲んでも問題なさそうだな……と思っていると、 「どう? 気持ちいい?」  兄が隣にしゃがんできて、手袋を外した。水に手を入れ、感覚を確かめるようにバシャバシャと洗う。 「うん、これはいいね。少し冷たいけど、気分がシャキッとしそう」 「そうだな。もう少し深いところに行けば、川魚でも捕まえられるかも……」  そう言ったら、兄はいきなりマントや上着を脱ぎ、武器だけを持って下着一枚になった。そして足首まで水に漬かりながら、ザブザブと川下に入っていった。 「兄上、水浴びか?」 「うん。なんか死者の国(ヘル)の瘴気がまだ纏わりついてるような気がして。綺麗に落としてくるから、見張りよろしくね」 「ああ、わかった……」  兄が脱ぎ散らかした服を簡単に畳みつつ、アクセルはその背を見送った。鍛え上げられた背筋が美しかった。  ――軟禁生活だったって言ってたけど、その場でできるトレーニングはしていたんだろうな。  腹筋、背筋、腕立て伏せ……等々。神器選考会で自由に動けなかったとはいえ、戦士である以上、身体の筋肉を落とすわけにはいかなかったのだろう。  兄が真面目にトレーニングをしているところなんて見たことがないけれど、それでも、ちゃんと鍛錬しているかどうかは身体を見れば一発でわかる。  そういう意味では、少し安心した。  腰くらいの深さがある場所まで下っていき、兄は肩まで浸かって気ままに遊泳し始めた。  それを横目で見つつ、アクセルはもう少し上流に行って手尺で水を飲んだ。冷たい喉越しが快感だった。自分の身体に直接沁み込んでいく心地がする。

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