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第505話
摩擦熱を利用する方法とどっちが簡単だろうかと悩んだが、手間はそれほど変わらないので、テクニック次第でどうにかなる石を使うことにしたのだ。
もっとも、本当に火打石で火を起こす場合は、瑪瑙 などの硬い石と火打ち金のような金属、それに火付きのいいガマの穂を使う必要があるのだが。
――こういう時は、火を吐けるドラゴンとかが羨ましいな……。
などとアホなことを考えつつ、なるべく無心になって石を叩きまくる。
生前はよく戦場で火起こしをしたものだが、ヴァルハラに来てからはその機会もめっきりなくなってしまった。厨房に入ればすぐさま火が使えたし、水もわざわざ汲む必要がなく、その場で使い放題だった。
ヴァルハラでの生活が、いかに便利で快適だったかを思い知らされる。そんな素晴らしい場所が焼け野原になってしまったのかと思うと、残念な気持ちが拭えない。
アクセルは何だかんだでヴァルハラに来て一年も経っていないけれど、歴史の長い戦士にとっては第二の故郷みたいな場所だったろうに……。
――本当に、これから一体どうなるんだろう……。
ロシェは、「ラグナロクが起こったら、オーディンはフェンリルに飲み込まれて死ぬ」と予言されていると教えてくれた。
ではもしその予言が的中して、オーディンが本当に死んでしまったら、自分たちは一体どうなるのだろう。
エインヘリヤルはその名の通り、オーディンの眷属である。その大元がいなくなってしまったら、自分たちも一緒に滅んでしまうのではないか。自分たちの存在意義もなくなってしまうのではないか。
オーディンにはまだ一度も会ったことがないが、自分たちだけがラグナロクを乗り越えられても、オーディンが滅んでしまったら生き延びることはできないのではないか……?
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