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第506話
「火、点けられた?」
一人で悶々としていたら、兄が川から上がってきた。綺麗に鍛え上げられた肉体が、清流でしっとり濡れている。思わずドキッとした。
「あ、あー……ええと、すまない。もう少しかかりそうなんだ」
「そっか。まあ、今は着火材がないからねぇ。着替えたら私も手伝うよ」
「ああ、ありがとう……」
すっ……と兄から目を反らし、火打ちを再開する。
火花は多少散っているものの、枯れ葉の上に落ちる前に燃え尽きてしまい、運よく枯れ葉に落ちても完全に火が点く前に消えてしまう。
もっと火付きのよさそうな枯れ草でも探して来ようか、それとも木の棒をひたすら擦る方法に切り替えた方がいいだろうか。
一応、もっと火花が散りそうな金属は持ち歩いているものの、さすがに自分たちの武器を火起こしの道具にするわけにはいくまい。誤って刃こぼれさせてしまったら、いざという時に戦えなくなる。
つばぜり合いをしてる時は、よく火花が散るんだけどなぁ……と思っていたら、兄が服を着て戻ってきた。
「どう? 調子は」
「うーん……やはり火付きが悪いな。石の硬度は十分なんだが、火打ちには金属じゃないとだめみたいだ」
「なんだ、それならナイフ使えばいいじゃない」
「それは思ったんだが、刃こぼれしたら困るじゃないか」
「みね側で打てばいいでしょ」
「どうだろうな……。じゃあ兄上が試しにやってみるか? 俺はその間に、果物でもないか探してくるよ」
「そう? いいけど、気をつけてね。夢中になって崖から落ちないようにしてよ?」
「落ちないって」
罠にかけられたならともかく、普通に散策していて崖に落ちることはまずない。足下に気をつけていれば大丈夫だろう。
「じゃあ、ちょっと近場を散策してくる。なるべくすぐに戻ってくるよ」
「はいはい、いってらっしゃい」
兄に見送られ、アクセルはしっかり武器を携帯して茂みの中に入った。
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