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第508話
いつの間にか見慣れない場所に来てしまったようだ。山菜に夢中になっていて、気付かないうちに山の奥に入ってしまったらしい。
「はぁ……」
自分でもびっくりするくらい、大きな溜息が出てしまった。これではお花摘みに夢中になって迷子になる子供と大差ないじゃないか。こんなだから兄に「崖から落ちないでね」なんて言われてしまうのだ。
まったく、情けない……。
――まあ、水源の音を辿って行けば帰れるんだが……。
ややバツが悪いな……と思いつつ、アクセルはそっと耳をすませた。目を瞑り、集中力を高め、風の音に掻き消されないよう、一生懸命水音を拾おうとする。
ところが……。
「……あれ?」
一度目を開け、頭を振り、もう一度耳をすませる。
聞こえているのは風の音、それに吹かれる葉擦れの音。それ以外は特にない。
――水音が聞こえなくなってる……!?
さすがにヒヤリとしてきた。
つまり自分は、水音が聞こえないほど遠くに来てしまったということか? これでは完全な迷子じゃないか。どうやって兄の元に帰ればいいのだろう。
しょうがないから少し歩いてみよう……と一歩足を出した途端、周囲の空気がピリッと鋭くなったような気がした。
ただならぬ気配を感じ、アクセルは反射的に小太刀を引き抜いた。せっかく集めた山菜を全部落としてしまったが、それを気にしている余裕はなかった。
――これ……結構ヤバいやつなんじゃないか……?
おそらく何かしらの獣だろう。数は多くない。群れで行動するオオカミの可能性は低そうだ。とすれば、イノシシか鹿というところだが……。
「……!」
微かにザザザ……と地面を這うような音が聞こえる。気配は近付いているのに、足音らしいものは全く聞こえない。
足がない獣? 地面を這って移動する獣? 群れではなく、ほぼ単体で行動する獣?
それって、まさか……。
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