509 / 2197
第509話
「っ……!」
殺気を感じ、ほとんど反射的に横に飛び退いた。
次の瞬間、今まで自分が立っていた場所に巨大な牙が突き刺さった。それはアクセルの背丈をゆうに超える大蛇の牙だった。
――やっぱりヘビか……!
できる限り距離をとるべく、アクセルは後ろ走りで逃げ出した。
このヘビ、全長何メートルあるかは見ただけではわからない。鎌首だけで三メートル以上はあるから、頭から尾までは数十メートルにも及んでいるかもしれない。
そこまで巨大だと、気付かないうちに足元に尻尾が伸びてくることがあるから非常に危険だ。この手のヘビは毒のあるなしに関わらず、獲物を締め上げて弱らせるのが狩りの基本である。そして意外とヘビの締め付けは強く、一度捕まったら自力ではなかなか振りほどけない。
だから絶対に捕まるわけにはいかないのだ。
――というか、なんでいつもこういうパターンになるんだよ!
闇雲な怒りが湧いてきて、アクセルは邪魔な枝を小太刀で切りつけた。
山に入ると、ほとんどの確率で巨大な獣に遭遇する。イノシシ、オオカミ、ハチときて、今度はヘビだ。
可愛いシカや小鳥が出てきてくれればいいものを、何故こうも獰猛な獣に好かれるのだろう。これでは命がいくつあっても足りない。
視界のよくない山の中を、大蛇は迷いなく追いかけてくる。ほとんど音もなくスルスルと移動し、確実に距離を縮めてくる。
――ああもう……! ヘビじゃなければ逃げ切れたかもしれないのに……!
ヘビは獲物の体温を感知して追いかけてくるので、視界が悪いところでも関係ない。アクセルが死ぬか、ヘビが諦めるかしない限り、どこまでも追いかけてくる。しかも、身体の大きさで言えば圧倒的にアクセルが不利だ。
どうする? このまま逃げるか? 戦うか? 助けは……呼べそうにないけど。
ともだちにシェアしよう!