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第510話

 ――こうなったら……!  アクセルは後ろ走りをやめ、目前に迫ってきた大蛇の頭上めがけて跳躍した。そして首元を狙って小太刀を振り抜いた。 「たあぁぁっ!」  キン、と軽い金属音が響いた。小太刀は大蛇の硬い皮に弾かれ、ほとんど傷をつけることができなかった。  でも、今はこれでいい。最初から大蛇を倒せるなんて思っていない。  とはいえ、このまま逃げ続けても大蛇は諦めてくれそうにない。それならこちらから反撃して、その隙に逃げる。  もともと肉食動物というのは、狙いを定めた獲物がなかなか狩れないとわかれば、すぐさま諦めて次の獲物を探すものなのだ。余計な労力をかけるくらいなら、他の手っ取り早い獲物に切り替えた方が遥か効率がいいからである。  これで少しでも怯んで撤退してくれればいいのだが……。 「シャアァァァア!」  だが中途半端な攻撃で相手を刺激してしまったのか、大蛇は目を血走らせて咆哮を上げた。長い尻尾を振り回し、周りの枝葉を薙ぎ払いつつ、アクセルを叩き潰そうとしてくる。  ――この程度じゃだめか……!  半端な刺激は逆効果だ。もっと確実な一撃を加えなくては。  しかし、切ることができない相手にどうやってダメージを与えればいいのだろう……。 「……!」  アクセルの脳裏に、ある日の死合いが蘇ってきた。兄とランゴバルトが対戦した時の、壮絶な一騎打ちのことだ。  全身に鎧を纏っているランゴバルトに対し、兄はどう戦っていたかというと……。  ――そうか、わかった……!  唸りを上げて襲ってくる尻尾をかいくぐり、アクセルはもう一度大蛇の頭上に飛び乗った。振り落とされそうになるのを必死で堪えつつ、再度大蛇の頭に小太刀を突き立てる。 「ギャアァァ!」  ズブ、という確実な手ごたえを感じた。  どんなに硬い皮に覆われていても、ウロコの繋ぎ目はちゃんと刃が通る。かつて兄も、ランゴバルトの肩関節を狙って刺突を繰り出していたことを思い出したのだ。

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