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第511話

「シャアアァァ!」 「……うわっ!」  苦痛に耐えきれなかったのか、大蛇が尻尾でこちらを叩いてきた。振り回された尻尾が身体に直撃し、近くの木まで吹っ飛ばされ、強く幹に叩きつけられてしまう。 「ぐっ……」  受け身を取り損ね、背中を強打してしまった。肺にまで響くダメージに息が詰まり、一瞬反応が遅れる。  ――くっ……!  荒ぶる尻尾が唸りを上げて、周りの木々を薙ぎ倒していく。  だが周囲に立派な木が多いせいか、かえってそれが盾になってくれた。小枝や木の芽は飛んできたけど、おかげで直撃は受けずに済んだ。  ――だが武器が……!  小太刀の片方は大蛇の頭に刺さったままだ。引き抜いて回収しないと、いざという時に十分に戦えない。  アクセルは己の身体を奮い立たせ、再度大蛇に近付いた。  頭に飛び乗ってしっかり小太刀の柄を掴み、反動をつけて思いっきり引っ張ってやる。 「ギャアァァァア!」  大蛇から一際大きな叫び声が上がった。  引き抜いた反動でアクセルは地面に転がり落ち、全身が土と枯葉まみれになった。  ――これでいい加減諦めてくれ……!  素早く起き上がって大蛇と距離を取る。  これで引いてくれなかったら次はどうしよう。これ以上相手をせず、こちらが逃げるべきだろうか。それとも、いっそのこと仕留めてしまおうか……。 「……!」  頭から小太刀が抜けた大蛇は、気勢を削がれたようにくるりと向きを変え、そのまま地面を這っていってしまった。振り向きざま、こちらを睨んできた目がやたらと鋭かった。  まあ、蛇だから当たり前なのだが……。  ――退いたか……。  アクセルは肩で大きく息をした。早くなった脈動を落ち着かせつつ、小太刀を鞘に納める。  ロシェが言っていた獣とは、ああいう連中のことを言うのか。これからヴァルハラに帰るまでずっと、巨大な獣と遭遇する危険性と隣り合わせということか。まったく、勘弁して欲しい。今回は何とか撃退できたが、下手したら命を落としていた。

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