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第517話
「ないとは言い切れないけど、少ないんじゃないかなぁ。ヴァルハラの図書館にあった例の本には、確か『エーギル』っていう海の神がいるって書いてはあったけど、海の神と言いながら所属は巨人族みたいだし。正式なアース神族やヴァン神族で、海の神は聞いた事ないなぁ……」
「そうか。……つまり、神々の世界で海に出ることは少ないということだな?」
「だと思うよ。よくよく考えれば、私もヴァルハラに来て十年以上、水上戦の訓練はやったことないもの」
「やっぱりそうなのか。まあ正直俺は、水上戦はあまり好きじゃないから助かるが」
もちろん泳げないわけではない。一般的な泳ぎ方は全部身に付けているし、着衣のまま海に落ちても何とかなる自信がある。
そうではなく、船の上にいると不規則な揺れで時々気持ち悪くなってしまうのだ。要するに船酔いである。足場がしっかりしていないところも好きじゃないし、どうせ戦うなら地上の方が戦いやすい。
すると兄が笑ってこんなことを言い出した。
「じゃあお前と手合わせする時は、船の上で戦えばいいのか。それはイイこと聞いたぞ」
「兄上は水上戦、苦手じゃないのか?」
「苦手ではないなぁ。むしろ結構好きかも。あのふわふわした感じ、たまらないんだよね」
「そ、そうか……。それに関しては、兄上と好みが合わないな……」
もしラグナロクで水上戦があったら、自分は兄の後方支援に回ろう……と心に誓った。
そのまましばらく山を歩いていると、次第に景色が暗くなってきた。だんだん陽が落ちてきたのだ。
足元も見えづらくなってきたので、アクセルは兄に話しかけた。
「兄上、どうする……? これ以上、進むのは危険だぞ?」
「そうだねぇ……。だからと言って、安全な寝床もなさそうだけど」
「……まあな。何かこう、巨大な木の根元に穴でも開いていればいいんだが……」
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