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第522話※
ヴァルハラまであとどのくらいなのか、ハッキリしたことはわからない。けれどこのままのんびりしていたら、いずれ身体が溶けて歩くこともできなくなる。
ならば身体が動くうちに、少しでもヴァルハラに近づかなくては。
そう思って小太刀を納め、大蛇に背を向けた次の瞬間――
「……!」
背後から地面を這う音が聞こえた。アクセルはハッとして振り返った。
倒したはずの大蛇が鋭い牙を剥き出しにし、首だけになってこちらに飛んできた。
身の丈ほどもある大口が迫ってくる。
「危ない!」
反応が遅れたアクセルを、兄が片手で突き飛ばした。足元が縺れ、地面に倒れた。背後でバキッと肉と骨が砕ける音を聞いた。
「兄上っ!」
慌てて起き上がり、そちらに目をやる。
兄は右手で再び愛刀を振り回し、大蛇の首を細切れに切り裂いていた。
「……まったく、困った蛇だね。しつこい子は嫌われるよ?」
柔らかそうな眼球を突き刺し、そこから刃を滑らせて口まで真っ二つに切り捨てる。
頭蓋ごとバラバラにされた蛇は、今度こそ絶命して動かなくなった。切られた口からは、飲み込んだばかりと思しき腕が一本出てきた。どこをどう見ても人の腕だった。
「兄上……!」
アクセルは足をばたつかせるように兄に駆け寄った。
太刀を握っている右腕は健在だったが、片マントに覆われている左腕は途中で断ち切られ、本来あるべき二の腕から先がなかった。先程弟を庇った時、大蛇に喰い千切られてしまったらしい。
「兄上、すまない……! 俺が油断していたせいで」
「いや、大丈夫。今は痛くないからね。急いで泉に行けば問題ないさ」
「わ、わかった……。とにかく急ごう」
細かいことを考えている余裕もなく、アクセルは兄の右腕を掴んで走り出した。
道はわからないはずなのに、何故かこっちだという確信があった。狂戦士モードのせいで第六感も鋭くなっているのかもしれない。
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