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第523話
そうやって日が暮れるまで走り続け、完全に道が見えなくなってからも、アクセルはひたすら足を進めた。
少しでも休んだら狂戦士モードが解けそうだったし、そもそも時間を置いたらどんどん身体が溶けていってしまう。そうなったら狂戦士でも走れない。
完全に動けなくなる前に、なんとかヴァルハラに辿り着かなくては。身体が溶けようが腕がもげようが、泉にさえ入ってしまえば全て元通りになるのだから……。
「……!」
その時、前方から何かの気配を感じた。巨大な獣のようだった。暗くてよく見えなかったが、トントンと軽快な足音でこちらに近づいてくる。大きいとはいえ、イノシシのような重厚感のある生物ではなさそうだ。
となると、サイズの大きな鹿か何かか……?
「はあ……今度は神獣かな? いい加減に欲しいね。こっちは急いでるのに」
兄が少し苛立たしげに抜刀する。姿を現した瞬間、仕留めるつもりみたいだ。彼も左腕がなくなっているので、これ以上敵に時間をかけたくないのだろう。
アクセルはやんわりと兄の腕を掴んだ。
「戦うより逃げた方が早いよ。狂戦士の今なら振り切れるはずだ」
「……そう? でも足音から察するに、結構脚の早い神獣っぽいよ? それにお前、さっきから走りにくそうにしてるし……。足元も見えない中、本当に振り切れるかな」
「……それでも戦っている時間はないんだ」
走っている時からずっと感じていた。いつも走り込みをしている感覚と違う。地に足がついていないような、ちゃんと地面を蹴っているのにいつもより前に出ていないような、そんな不安定さを覚えていた。
今は足元がよく見えないが、もしかしたら足の指が既に溶け始めているのかもしれない。蛇の体液は、少しずつだが確実に、自分の身体を溶かしているのだ。ここで神獣とバトルしている時間はなかった。
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