531 / 2198

第531話(フレイン視点)

 ――確かに、オーディン様の気持ちはわからない。けれど……。  弟の様子を見守りつつ、一人でじっくり思考する。アクセルは未だに目を覚まさないが、だいぶ呼吸は落ち着いてきた。蛇の体液もほとんど落ちて、あとは溶けた部分が回復するのを待つだけである。  ――本当に「死」を予言されていたとしたら、普通はどんな行動をとるだろうか……。  まず、その「死」を回避できないものか全力で考える。「フェンリルに飲み込まれて死ぬ」と言われているのなら、そのフェンリル――氷の狼を先に片付けてしまうとか。  でも、フェンリルを片付けただけで安心するのは危険かもしれない。何かの拍子でフェンリルが復活してしまう可能性もあるし、予想外のところで命を落とすこともある。心配のタネは全部取り除いてしまう方が望ましい……。  そこまで考えて、フレインは顎に手を当てた。  ――心配のタネってどこからどこまで……?  予想外のところで……などと考え始めたら、周りのものが全部危険なものに見えてきてしまう。本来ならあり得ないことを妄想し、疑心暗鬼に陥って何も信用できなくなりそうだ。  そして疑心暗鬼に陥った者が、己の「死」を回避するために何をするかと言ったら……。 「……!」  飛躍した考えが頭をよぎり、フレインは軽く首を振った。  いや、まさかね。いくら何でもそこまではしないと思……。 「オーディン様、案外自分以外のものはどうでもよかったりしてね」  唐突にミューが口を開いたので、さすがにドキッとした。今自分が考えていたことと、ほとんど同じだったからだ。  フレインはあえて質問してみた。 「……ミュー、それは一体どういう意味だい?」 「いやね……死ぬのが怖いなら、その原因となるものを全部取り除いちゃえば心配もなくなるかなーって。だからいっそ、『自分以外の全てを滅ぼしちゃえ~』とか考えてたりして……って、今ふと思った」 「……!」

ともだちにシェアしよう!