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第531話(フレイン視点)
――確かに、オーディン様の気持ちはわからない。けれど……。
弟の様子を見守りつつ、一人でじっくり思考する。アクセルは未だに目を覚まさないが、だいぶ呼吸は落ち着いてきた。蛇の体液もほとんど落ちて、あとは溶けた部分が回復するのを待つだけである。
――本当に「死」を予言されていたとしたら、普通はどんな行動をとるだろうか……。
まず、その「死」を回避できないものか全力で考える。「フェンリルに飲み込まれて死ぬ」と言われているのなら、そのフェンリル――氷の狼を先に片付けてしまうとか。
でも、フェンリルを片付けただけで安心するのは危険かもしれない。何かの拍子でフェンリルが復活してしまう可能性もあるし、予想外のところで命を落とすこともある。心配のタネは全部取り除いてしまう方が望ましい……。
そこまで考えて、フレインは顎に手を当てた。
――心配のタネってどこからどこまで……?
予想外のところで……などと考え始めたら、周りのものが全部危険なものに見えてきてしまう。本来ならあり得ないことを妄想し、疑心暗鬼に陥って何も信用できなくなりそうだ。
そして疑心暗鬼に陥った者が、己の「死」を回避するために何をするかと言ったら……。
「……!」
飛躍した考えが頭をよぎり、フレインは軽く首を振った。
いや、まさかね。いくら何でもそこまではしないと思……。
「オーディン様、案外自分以外のものはどうでもよかったりしてね」
唐突にミューが口を開いたので、さすがにドキッとした。今自分が考えていたことと、ほとんど同じだったからだ。
フレインはあえて質問してみた。
「……ミュー、それは一体どういう意味だい?」
「いやね……死ぬのが怖いなら、その原因となるものを全部取り除いちゃえば心配もなくなるかなーって。だからいっそ、『自分以外の全てを滅ぼしちゃえ~』とか考えてたりして……って、今ふと思った」
「……!」
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