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第533話(フレイン視点)
「そう考えると、ますます何のために戦っているのかわからなくなってきますね。これだけこき使われているのに、最終的には滅ぼされるなど……この場で脱走してもいいくらいです」
「脱走かー。僕はそれでもいいと思うよ。逃げる場所があれば、だけど」
「確かに、逃げるったってどこに逃げるって感じだよな。世界は全て世界樹 で繋がっている。世界全体がラグナロクに巻き込まれている中、どこに行ったところで状況は同じだ」
三人がああだこうだと話を始める。だが至った推論より先には進まず、この先どうするべきか考えあぐねているようだった。
――まあ私は、この子と一緒なら滅んだってかまわないんだけどさ。
弟の輪郭を撫でながら密かに思った。「滅んでもかまわない」なんて言ったら他の三人から大ブーイングを食らうので、口には出せないけれど。
――お前はどう思う? アクセル……。
お人好しで優しい弟のことだ。「死」の予言に怯えているオーディンを、何とか助けてあげたいと考えるのではないか。予言を覆す方法はないかと、あちこち探るのではないか。
もしそれが上手くいけば、ラグナロクを終わらせることのみならず、自分たちが生き延びることにも繋がる。またどこかで平和な日常を過ごせるようになる。
問題はその方法だが、果たしてどのようにするのが一番いいだろうか。死の予言を覆すことなんて、そう簡単にできるとも思えないが……。
「う……ん」
弟が小さく呻いたので、フレインは「おや」と視線を落とした。
ずっと泉に浸かっていたおかげで、顔色も随分よくなった。呼吸も安定してきたし、そろそろ目を覚ましそうである。
弟が全快したら、二人きりになれる場所に行って思いっきり可愛がってあげたい。人質に出て以来ずっとお預けだったことを、久しぶりにやってみたい。
ラグナロクの最中なのに何考えてるんだ……って怒られそうだけど、少しくらいならかまわないよね……?
「アクセル、起きて」
耳元で甘く囁きかけたら、弟のまぶたがぴくりと震えた。
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