553 / 2013

第553話

 階段が緩い分、予想以上に長くなっていて、一体いつになったら地下施設に辿り着くのかやや不安になった。  階段の壁際にはぽつぽつと明かりが灯してあるだけで、足元も暗くてよく見えない。 「随分遠いところにあるんだな、地下施設って……」 「そうだね。生活するには若干不便だけど、万が一敵が押し寄せてきてもある程度の時間稼ぎはできるんじゃないかな」 「それもそうか……。しかし、こんなところに敵が押し寄せてきたら、俺たち逃げ場がないんじゃないか……?」 「そりゃないでしょう。そもそも私たちには、『逃げる』なんて選択肢自体最初からないんだから」 「えっ……?」 「オーディン様の眷属(エインヘリヤル)っていうのは、死を恐れない勇敢な戦士だからね。敵に襲われたら返り討ちにするか、そのまま戦死するかの二択しかない。敵前逃亡するような戦士は、そもそもヴァルハラに招かれていないんだ」 「それは……」  兄の言葉で、今更ながら自分の立場を思い出す。  オーディン様の眷属(エインヘリヤル)は、あくまで「駒」だ。なるべく多くの敵を倒すための一兵士にすぎない。  その一兵士が、敵を前にして逃亡するなどあり得ない。死を恐れずにひたすら戦うからこそ、オーディン様の眷属(エインヘリヤル)たり得るのだ。  ――逃げることは許されない、か……。  理屈はわかる。だが、それなら自分たちは、一体いつまで戦わなければならないのだろう。ラグナロクが終わらない限り、永遠に戦い続けるしかない。そしてずっと戦っていれば、いつかは戦死する時がやってくる。棺もないし、死ねばそのまま死者の国に直行だ。  それは……今のアクセルには、とても虚しいことのように思えた。  一人で悶々としていると、兄がこんなことを言い出した。 「……とまあ、これはあくまで建前だよ。今は逃げ場がないけど、万が一の緊急避難口は用意しているところ。敵に襲撃されたくらいで、地下施設にいた戦士がまるまる全滅っていうのも効率が悪いしさ」 「だ、だよな……」

ともだちにシェアしよう!