554 / 2013

第554話

「それにねぇ……オーディン様が本当に、自分以外の全てを滅ぼすためにラグナロクを始めたんだとしたら、戦いに勝ったところで滅ぼされるのがオチだよ。それじゃ、何のために戦うのかわからない」 「え……? 自分以外の全てを滅ぼすって……」  飛躍した考えに驚愕していると、兄は真面目な口調で説明してくれた。  アクセルが気を失っている間、泉でジークやユーベル、ミューと話し合っていたこと。これまで経験してきたことや手に入れた情報、それらを総合して考えた結果、『全滅説』に落ち着いたということ。でもこの先どう行動するかまではハッキリ決まっていないこと……。 「そんな……。もしそれが本当だとしたら、俺たちは一体何のために……」  どんな戦にも、「この戦いが終わったら〇〇できる」みたいな、ちょっとした希望がある。  この戦いが終わったら家に帰れる、美味しいご飯が食べられる、思いっきりショッピングできる、平和な生活を送れる……等々。  だから辛い戦にも参加できるし、生き抜くための原動力になるわけだ。  だけど、ラグナロクにはそれがない。最終的に全てが滅ぼされるのなら、例え戦いに生き延びたところでその先はない。  だとすれば、自分たちは一体何のために戦わされているのだろう……。  兄が苦い表情で言った。 「死の予言を覆せれば簡単なんだけどね……。まあとにかく、オーディン様の都合で滅ぼされるわけにはいかないからさ、どうにかしないと」 「予言を覆す……?」  アクセルははたと前を向いた。  そうか、ラグナロクが起こったのも元を正せばオーディンが「ラグナロクでフェンリルに飲み込まれて死ぬ」という予言を受けたからだ。その予言があったからオーディンは、地上の強者を眷属(エインヘリヤル)としてヴァルハラに集め、戦力増強に努めていたのだ。  けれど予言通りラグナロクは起こり、神々と巨人族が潰し合うという不毛な争いに発展している……。

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