557 / 2013

第557話

 厨房は食堂のすぐ隣にあり、自由に食事できるようになっていた。網の上にはシンプルなパンが並んでいて、鍋の中にはイノシシのシチューが残っている。必要なら、自分で好きなものを調理して食べていいそうだ。ただし食料の備蓄にも限度があるから、あまり無駄遣いはしないように、と言われた。 「ピピちゃんは一体何を食べるんだろうねぇ? お肉かな」 「……だから、肉を食べたいのは兄上だろ」  と呆れつつ、雑食かもしれないので一応自分と同じ食事を用意してみる。  深めの皿にシチューをよそい、大きめに切ったパンをそこに浸した。シチューには肉も野菜も含まれているから、何が好きなのか選別しやすい。  ――早く戻らないと……。  アクセルはトレーに皿を乗せ、兄に言った。 「じゃあ俺、ピピと食事してくるよ。兄上はどうする?」 「んー……私は遠慮しとこうかな。ピピちゃん、お前と話したそうだったから」 「……そうか。じゃあ行ってくる」  兄に見送られ、再び長い階段を上る。  来たときよりも多少短く感じたが、疲れた時に上るとこの道のりがやたらと億劫に思えた。  ここでしばらく生活することになるなら、やはり早いところショートカット用の道を作っておきたい。 「ピピ、お待たせ」 「ぴー!」  外に出た途端、ピピがこちらに駆け寄ってきた。全身で喜びを表現しながら、わくわくしたまなざしをこちらに向けてくる。  アクセルは地面にトレーを置き、近くの石に腰を下ろした。 「とりあえず、俺と同じメニューにしてみたぞ。イノシシのシチュー、ピピは食べられるか?」 「ぴー」 「そうか、よかった。じゃあ早速いただこう。……こっちがピピの分な」  アクセルがパンを掴んだ途端、ピピがシチューの皿に顔を近づけた。そしてものすごい勢いでシチューをかき込み、あっという間に平らげてしまった。

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