564 / 2013
第564話(フレイン視点)
アクセルのことだから、石碑を見つけた途端後先考えずに破壊しかねない。それだけは絶対に阻止せねば。
ただその一方で、こんな不毛な戦いさっさと終わらせたいという気持ちも湧いてきている。最初から最後まで神の身勝手に翻弄され、滅ぼされるなんてまっぴらだ。
例え消えることがわかっていても、石碑を見つけたら腹立ち紛れにすぐさま破壊してしまいそうである。
――もし私が石碑を破壊した場合、アクセルは私のことを忘れちゃうんだよね……。
それはとても悲しい。可愛がってきた弟が、自分のことをまるで「最初からいなかった」かのように忘れてしまうなんて、想像するだけで寒気がする。例え二度と会えなくても、心のどこかでは自分のことを覚えていて欲しい。一緒に過ごした楽しい記憶くらいは、覚えていて欲しい。
だけど……。
――アクセルのことだから、私のことを覚えていたらそれはそれで大変そうだな……。
もう二度と会えないとなったら、ずっと泣いて暮らしそうだ。
生前は「ヴァルハラに行けば、いつか兄上に会える」と思って、死に別れた後も一人で生きてきたんだろうけど、存在を消されてしまったら会える希望もなくなる。本当に独りぼっちで、生きていくしかなくなる。
それならいっそのこと、「兄」の存在なんか最初からなかったことにして、他の友人と楽しく暮らした方が幸せなのかもしれない……。
――ま、他の誰かが石碑を破壊してくれれば、そんな心配をする必要もないんだけどさ。
誰か間違って石碑破壊してくれないかなぁ……などと他力本願なことを考えつつ、ふとフレインは顔を上げた。
「そう言えばあの子、なかなか帰ってこないね? 一体何してるんだろ」
「お、心配なのか? さすがお兄ちゃん、過保護だねぇ」
「それなら様子を見に行ったらどうですか。ま、こんな夜中に敵襲があるとは思えませんけどね」
「うん、じゃあ行ってくるよ」
フレインはガタッと席を立ち、地上への長い階段を昇って行った。
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