572 / 2014
第572話
「あなたは死者の国 に堕ちたから知らないでしょうが、開戦直後は本当に大変だったんですよ。乱戦状態の戦場に突然放り込まれ、ヴァルハラに帰っても休む場所がない。地下施設もこの通り、十分に整備されていない状態です。ランキング二〇〇〇位以下の戦士はほとんど死んでしまいました。生き残っているのは上位ランカーと、要領のいい中位ランカーだけです」
「…………」
「わかりますか? たったひとつの手落ちで、これだけ状況が悪くなり得るんですよ。普段ならある程度大目に見られますが、今は自分たちが滅びるか生き延びるかの瀬戸際です。勝手に動き回られてはたまりません。フレインたちが戻ってくるまで、ここでおとなしくしていなさい」
ユーベルの言葉が深く胸に突き刺さる。
アクセルは視線を落とし、自分の足元を見つめた。
――そんなにたくさんの人が……。
ランキング二〇〇〇位以下なんて言ったら、ヴァルハラにいた五〇〇〇人の戦士のうち三〇〇〇人は死んでしまったことになる。もちろんそれだけでなく、神や巨人もたくさん死んだだろう。イマイチ実感が湧かないが、ラグナロクとはそれほど大きな戦争なのだ。
その引き金のひとつを、自分が引いてしまった。直接的なきっかけではないにせよ、アクセルはラグナロクを引き起こす原因を作ってしまった。
お前のせいだと言われたら、完全に否定するのは難しい。
だけど……。
「……じゃあ俺は、一体どうすればよかったんですか」
「はい?」
「騙されずに済む方法があるなら、最初から教えて欲しかった。俺だってロキが兄に化けてるってわかっていたら、ヤドリギのことなんて喋りませんでした……。あの状況で騙されない人なんて、いるとは思えない……」
「…………」
「ユーベル様は『余計なことをするな』と言いますが、それなら隠そうとせず最初から全部説明してください。何も知らなかったら俺、逆に余計なことをしてしまう。今だって、兄を追いかけて出て行こうとしてました。兄がいつどこで何をしているかわからないから、不安になって追いかけたくなるんです。わからないことが一番恐ろしいんです」
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