576 / 2014

第576話

 後方で皆を守っていた方が……などと言うが、今生き残っている連中は、自分の身は自分で守れるような強者ばかりだ。アクセルの援護など必要ないんじゃないかと思う。  それなら自分がいる意味は? 何の役にも立たないのなら、いてもいなくても同じではないか……。 「納得できていないような顔ですね」 「…………」 「あなたは実にわかりやすい。素直で純粋で、ひねくれているところがほとんどありません。反抗期前の子供みたいですね」 「……子供ですか……」 「ええ、子供です。だからこそフレインも、放っておけなくなるんでしょう」 「それは……あまり嬉しくないのですが……」 「どの部分についてですか? 子供扱いされていること? 放っておけなくなること?」 「……全部です。何故みんな俺を子供扱いするんですか。これでも俺は二十七歳の大人です。自分の足で歩けるし、考えることだってできます。子供みたいに守られるだけの存在なんて、まっぴらです。それじゃ何のためにヴァルハラに来たのかわからない……」 「…………」 「……俺は一体、何のためにここにいるんですか……?」  俯いたまま心情を吐露したら、ユーベルが再び立ち上がる音がした。彼は含み笑いを漏らしながら、こちらに近付いてきた。 「なるほど、フレインが時折嘆いていた理由がよくわかりました。あなたは本当に、自分に自信がないのですね。身体だけ大きくなった子供というのは、あながち間違っていませんでしたか」 「っ……」 「というか、そんなに役に立ちたいなら仕事を差し上げますよ? 例えば……」  ユーベルに再び顎を掴まれる。顔を徐々に近づけられ、ただならぬ気配に再びぞっとしてきた。 「ちょ、ちょっとユーベル様……!」  アクセルが叫びかけた時、不意にユーベルがパッと手を放した。 「おっと」  ひらりと身体を反らし、華麗に太刀筋を避ける。アクセルの目と鼻の先を、素振りの空気が鋭く通過していった。

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