577 / 2013
第577話
「ありゃ、外しちゃった。さすがにユーベルは、身のこなしが抜群に優れているね」
「お褒めにあずかり、光栄ですよ」
皮肉を受け流し、微笑みを返すユーベル。
兄が太刀を鞘に納めたのを見て、アクセルは目を丸くした。
「兄上……! もう帰ってきたのか……」
「もうって何? 私、まる一日出掛けてたんだけど。外は夕方だよ?」
「……えっ?」
「お前、まさか午後まで爆睡してたんじゃないだろうね? あまりに気持ちよさそうに寝てるから起こさなかったけど……お前、ちょっと平和ボケしてない?」
「え……ええ……?」
衝撃のあまり、愕然と目を見開く。
兄とユーベルを交互に見やり、二人の呆れ顔にますます愕然としてしまった。
――じゃあ、俺が置いていかれたのは本当にただ寝過ごしていただけ……?
なんてことだ。寝過ごして置いていかれたとも知らず、何か裏があるんじゃないかと勘繰り、ユーベルに噛みついた挙句、お仕置きされそうになる始末。早とちりにも程がある。恥ずかしい。穴があったら入りたいくらいだ。
すると兄が、少し眉を顰めてこちらの全身を眺めてきた。そして言った。
「……というかユーベル、この縛り方は何だい? 弟の色気が台無しじゃないか」
「そりゃあ、拘束するために縛ったんですから色気が出ないのは当然です。わたくしはあなたのような変態じゃありませんからね」
「よく言うよ。さっき弟に変なことしようとしてたくせに。何をしようとしてたか、正直に言ってごらんよ。怒らないから」
「あなたの『怒らないから』ほど信用ならないものはありませんね。時間の無駄ですから、わたくしは拡張工事のお手伝いにでも行ってきますよ」
そう言ってユーベルは、スタスタと部屋を出て行ってしまった。きちんとグレイプニルを解いてくれたので、そこはホッとした。
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