578 / 2013
第578話
「まったく……油断も隙もないね。どさくさ紛れにいたずらしようとするなんて、今度やらかしたら本気で斬ってやろうか」
……と、むくれる兄。
気を取り直し、アクセルは尋ねた。
「あの……それで兄上は一体どこに行っていたんだ?」
「ん? ちょっと遠くの山にね。拡張工事の資材もそうだけど、食料も集めないといけなかったから」
「それなら書き置きくらい残していってくれても……。それに、何でユーベル様は何も教えてくれなかったんだ? 遠くの山なら、最初からそう言ってくれればよかったのに」
「だってお前に教えたら、私の後を追ってきちゃうじゃない」
「そりゃあ追いかけるよ……。そんな危険な場所じゃなさそうだし、資材集めなら俺も手伝えるし」
そう言ったのだが、兄は更に呆れた顔になってしまった。指で軽く胸を突かれ、こんなことを言われる。
「それは慢心ってやつだよ。お前はほとんどヴァルハラでしか生活したことないから、外の世界のことを全然知らない。図書館の書物で勉強したこともない。まさに井の中の蛙だ。井戸の中の狭い世界しか知らない蛙が、いきなり大海に出て生き残れるわけがないでしょう」
「それは……そう、かもしれないが……」
「もっと平和になったら、一緒にいろんな世界を回りたいところだけどね。今は戦時中だから、そういうわけにもいかなくて。だからお前はここに残って、ヴァルハラに攻めてきた敵を撃退して欲しいんだ。外はお兄ちゃんたちが何とかするからさ」
「…………」
「お返事は?」
「……わかったよ……」
「うん、いい子いい子。それじゃあ、一緒に拡張工事を手伝いに行こうか。あ、お前は厨房の方を手伝った方がいいかな?」
と、こちらの手を引っ張ってくる兄。
何だか上手い具合に言いくるめられている気がしたが、「井の中の蛙」というのは図星すぎて何も反論できなかった。せめてラグナロク前に図書館でいろいろ勉強しておけばよかったが、今となってはそれもできない。
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