579 / 2013

第579話

 だから、兄の足手まといになるくらいなら、ここに残っていた方がいいかも……と納得しかけている。  だが、その一方で同じ戦場に立てないのはやはり辛かった。兄の隣で戦いたい一心で必死に鍛錬してきたのに、前線に出させてもらえないなんて悲しすぎる。  それに……。 「……兄上」  アクセルは兄の背に声をかけた。兄が肩越しに振り返ってくる。  なんだか泣きそうになり、やや視線を落として言った。 「もう一度約束してくれ。絶対に俺を置いて死んだりしないって」 「うん? どうしたの、いきなり」 「いきなりじゃない。ずっとそう言っている。俺はもう、兄上に置いて行かれるのは嫌なんだ。一人になったら生きていける気がしない」 「またそんな……。生前は、私が死んでからもたくましく生きてたじゃない」 「あの時は、ヴァルハラに行けば兄上に会えると思っていたんだ。だから独りぼっちでも何とか生きてこられた。……でも、今はもうだめだ。もし兄上が死んだら、俺もすぐその後を追ってしまう」  握られている手を、ぎゅっと握り返した。  兄が目をぱちくりして手に視線を落とした。思った以上に力がこもっていたのか、少し驚いているようだった。 「兄上は本当の意味で、俺の死に目に遭ったことがない。今生の別れというのを経験したことがない。だからわからないかもしれないが、大事な人の死は本当に息ができないくらい辛いんだ……」 「…………」 「だからつい……いつも兄上の側にいたいと思ってしまう。まあ、あまり側にいすぎても鬱陶しいし邪魔なだけかもしれないけどな。現にユーベル様にも『足手まといだ』って言われてしまったし」 「ええ? そんなこと言われたの? ユーベルめ、可愛い弟になんてことを」 「……でもほとんど事実だ。実力が足りないのもわかってる。今はラグナロクの最中だし、わがままを言うつもりはない。……でも、兄上が死んだら俺は生きていけない。それだけは覚えていてくれ」

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